マウスピース矯正は、近年ますます人気が高まっている歯列矯正の一つです。多くの人々がマウスピース矯正を選択するようになっています。
その中でも、歯全体の矯正ではなく、部分的にマウスピース矯正を行う部分矯正をされる方もいらっしゃいます。
マウスピースによる部分矯正治療とは、どのような治療なのでしょうか?
例えば、前歯だけの矯正なども可能なのでしょうか?
この記事では、マウスピースによる部分矯正治療について、皆さんから多く寄せられる疑問を見ていきます。
マウスピースによる前歯のみの矯正は可能?
マウスピース矯正で前歯のみの矯正は可能?
まず前歯とは、笑ったときに相手からよく見える歯で、前から3番目の犬歯(糸切り歯)までの歯を指します。上下左右で計12本あります。
「この12本の歯をどのように美しく整えるか」というのが前歯のみの矯正になります。
一方でマウスピース矯正とは、皆さんそれぞれの希望や口の状態をもとにして、オーダーメードで製作した透明なマウスピースを使って歯を移動させる、画期的な歯列矯正治療です。
マウスピースが歯に力をかけることで、歯を移動させます。マウスピースは定期的に交換することになっており、マウスピースを交換することで、歯に新たな力がかかります。
この繰り返しによって、目的とする方向へと歯を移動・回転させていく矯正治療がマウスピース矯正です。
マウスピース矯正は、前歯部のみの歯並びを整える場合にも使います。前歯を少しだけ動かす、回転させるなど、移動・回転させるためのスペースがあれば、マウスピース矯正は選択肢の一つになるでしょう。
マウスピース矯正はどのような症例に可能?
マウスピース矯正はどのような症例に使えるのでしょうか?
マウスピース矯正が使える(適用できる)症例には、アンダーバイト(受け口)、オーバーバイト(出っ歯)、叢生、すきっ歯、クロスバイト、がたつきなどがあります。
(1)アンダーバイト
アンダーバイトとは、下顎の前歯が上顎の前歯よりも前に出ている状態を指します。いわゆる「受け口」で、この状態を医学的には「下顎前突(かがくぜんとつ)」とも呼びます。
アンダーバイトは下顎が突き出たような形になるため、正面から見た場合は下顎が相手からの印象を大きく左右してしまうこともあるでしょう。
かみ合わせでは、食べ物をかむ際に上下の歯がうまくかみ合わないため、咀しゃくの効率が悪くなることがあります。
また発音にも影響し、例えばサ行などの音を発音する際に息漏れが生じることで、聞き取りづらく感じられることも多いでしょう。
さらに、しっかりとかみ合うのが奥歯だけのため、奥歯のすり減りが進行する弊害もあります。その力が顎関節に過剰な負担をかけることで、顎の痛みや頭痛を引き起こすことにもつながります。
マウスピース矯正で対応できる症例も多数ありますので、まずは無料相談でご相談ください。
(2)オーバーバイト(出っ歯)
オーバーバイトとは、上の歯が下の歯よりも大幅に出ていることにより、かみ合わせが悪くなっている状態です。アンダーバイトの逆の状態といえるでしょう。
食べにくさやしゃべりにくさを感じるほか、独特な舌の動かし方の癖などが見られます。
少しずつかみ合わせを改善することで、見た目の改善をしていきます。
(3)叢生(そうせい)
叢生とは、歯の横幅の大きさと土台の顎の骨の幅に差があるために、歯が部分的に重なり合って生えていることを指します。矯正治療を希望する方に一番多く見られる症状です。
歯が不規則に並ぶため、笑ったときや会話時に歯並びの不ぞろいが目立ち、相手が受ける印象に影響を与えます。
歯が重なり合っているため歯磨きやフロスがしにくく、口臭の原因になったり、歯石が沈着して虫歯や歯周病のリスクを高めたりします。
マウスピース矯正により、理想とする歯並びへと歯を移動させましょう。
(4)すきっ歯
すきっ歯とは、歯と歯の間に隙間がある状態を指します。特に前歯に隙間がある状態が多く見られます。
前歯にすきっ歯があることによる影響として、まず印象が左右されてしまうでしょう。
発音への影響もあります。サ行の音を発音するときに、息漏れが起こるためにクリアに聞こえないことがあります。特に、前歯の隙間が大きい場合に顕著です。
マウスピース矯正により、歯の位置や傾きを調整することで、隙間を狭くしていきます。
(5)クロスバイト
上下の歯並びにおいて、口を閉じているときに上の歯が外側、下の歯が内側に位置していることが理想ですが、クロスバイトはこの関係が部分的に逆になっている状況を指します。交叉咬合ともいう状態です。
しっかりかめる部分としっかりかめない部分に分かれるため、顎の関節に負荷をかけてしまい、顎関節症になることもあります。
マウスピース矯正により、歯の位置や傾きを調整することで、かみ合わせを改善させていきます。
(6)マウスピース矯正だけでは難しいことも
マウスピース矯正は多くの症例で使われています。
ただし、いずれの場合においても、前歯部だけでなく奥歯(大臼歯)の歯列矯正も必要な場合があります。
歯を動かす・傾きを整える矯正だけで、きれいな歯並びができる場合もあります。一方で、歯を支える土台である顎の骨から整えることが必要な場合もあるのです。
こういった症例では、マウスピース矯正だけでは矯正治療ができないことがある点にご注意ください。
マウスピース矯正で前歯のみの部分治療ができない症例とは
マウスピース矯正は、多くの症例で採用されています。しかし、マウスピース矯正では歯並びが整えることができないこともあるのです。
前歯のみの部分治療でマウスピース矯正ができない症例は、いくつかの条件や口の状況によります。以下で代表的なケースを見ていきましょう。
(1)重度の不正咬合の場合
オーバーバイト(出っ歯)やアンダーバイト(受け口)も軽度であればマウスピース矯正が使えることがあります。しかし、歯を移動させるだけで整えることが難しい重度の場合には、使いにくいことがあるでしょう。
(2)奥歯を含めた歯列全体が不ぞろいの場合
前歯部だけを動かすマウスピース矯正では、奥歯(大臼歯)までマウスピースで覆い、奥歯を足場として前歯を整えていきます。
この場合、奥歯の歯並びは矯正されません。例えば奥歯がクロスバイト(交叉咬合)になっている場合、前歯だけの矯正ではなく、全体の歯に対するマウスピース矯正を考えることが必要になってきます。
(3)歯列のアーチの形を整える必要がある場合
歯並び全体のアーチが狭い、上下でアーチが合っていない場合、前歯のみを矯正しても歯全体のバランスはなかなか取れません。
(4)上下の顎の成長速度に差がある場合
顎の成長異常=骨格に差がある場合、前歯のみの矯正では根本的な問題が解決されません。この場合、顎関節の痛みや口が開けにくいなどの問題も見られることが多く、部分矯正では症状を悪化させることがあります。
(5)歯の移動量に限界がある
歯の移動距離が長い場合、つまり前歯を大幅に移動させる必要がある場合、全体的な矯正が必要になることがあります。
また、歯槽骨がない部分に歯は移動できません。そのため歯根がどの位置まで動かせるかが問題となり、前歯のみの矯正では歯並びを整えることが不十分なことがあります。
(6)ブリッジ、インプラントなどが入っている
すでにブリッジやインプラントが存在すると、なかなか動かないことが多いため、部分的な矯正治療が難しいことがあります。
(7)咬合の安定性の問題
前歯のみの矯正をした場合、全体の咬合のバランスが崩れてしまうために、かえって不安定になる場合があります。
マウスピースによる前歯のみの矯正のメリット・デメリットとは
マウスピース矯正で前歯のみを矯正するメリット
マウスピース矯正は、前歯のかみ合わせや歯並びの問題を解決します。
歯並びが改善することで、まず口元の見た目がスッキリするでしょう。また発音がよりクリアに改善され、相手もあなたの声を聞き取りやすくなります。さらに歯磨きがしやすくなるため、虫歯の予防、歯周病の予防、口臭の軽減につながります。
他にも、マウスピース矯正は透明なマウスピースを装着して歯を動かす治療です。そのため、治療していることが相手からは分かりにくいというメリットがあります。多くの方と接するような仕事をしている方からは、とても喜ばれやすい治療法です。
マウスピースは取り外しが可能です。歯磨きがとてもしやすいため、虫歯や歯周病の発生リスクが減らせるメリットもあります。
前歯のみの部分矯正であれば、全体的な歯列矯正に比べて治療期間が短く、その結果、治療にかかるコストも抑えられます。
マウスピース矯正で前歯のみを矯正するデメリット
前歯のみのマウスピース矯正は多くの症例に使われています。しかし、マウスピース矯正では歯並びが改善しにくい症例もあります。
例えば歯を動かす距離が長い(移動量が大きい)症例では、目的とする位置まで歯を移動できないこともあるため、他の治療法を検討することがあります。
また前歯のみのマウスピース矯正は、目立つ歯を矯正するため審美的な改善は期待できるものの、根本的な歯並びの改善にはなりにくいです。根本的な歯並びを改善するには、歯全体のマウスピース矯正が必要になります。さらに審美的な改善は期待できるといっても、もともと歯並びがかなり良い人でなければ、前歯のみの矯正ではきれいに並ばないこともあるのです。
このように、前歯のみの部分矯正は、全体的な歯列矯正に比べて短期間で治療が済み、治療にかかるコストも抑えられるメリットもありますが、注意すべきことが多くあります。また一般的に、前歯のみの部分矯正よりも歯全体のマウスピース矯正をしたほうが、効果的かつメリットが大きいです。医師に相談した上で、前歯のみの部分矯正か全体矯正か決めるべきでしょう。
マウスピースによる前歯のみの矯正の期間はどれくらい?
マウスピースによる部分矯正治療にかかる期間の内訳
マウスピース矯正の治療期間は、患者の歯並びの状態や治療計画によりますが、一般的には以下のステップを経て進行します。
(1)カウンセリングから検査まで
治療を開始する前に、まずカウンセリングを行います。ここでは、患者さんの希望や心配なことなどについて、詳しく話し合います。
カウンセリングの後、初診時に詳細な口腔内検査が行われます。歯の写真撮影やレントゲン撮影、型取りを行い、患者の歯並びの状態を正確に把握します。このステップには通常、1~2週間かかることが多いです。
(2)検査終了から治療開始まで
検査が終了すると、得られたデータをもとに治療計画が立てられます。具体的な治療方法、マウスピースのデザインが決定し、患者さんに説明されます。患者さんが納得したら、マウスピースの製作にかかります。検査終了から治療開始までは、約1カ月程度かかるでしょう。
(3)治療期間
実際の治療期間は、患者の歯の状態や目標とする歯並びによって異なりますが、治療期間は最短3カ月から18カ月程度です。マウスピースは定期的に交換し、徐々に歯を動かしていきます。1日20時間以上の装着が推奨されており、定期的な歯科医師による確認も重要です。
(4)治療後の保定期間について
治療が終了した後も、歯が元の位置に戻らないようにする保定という期間が必要です。保定装置(リテーナー)を使用し、通常は治療と同じくらいの期間(6カ月程度)装着して歯の位置を固めます。保定期間中も歯科医師による定期的な診察が必要です。
マウスピースによる前歯の部分矯正は、カウンセリングから保定期間まで含めると平均約1〜2年程度の期間がかかります。
マウスピースによる前歯のみの矯正の費用は?
マウスピースによる部分矯正治療にかかる費用の内訳を見ていきましょう。
カウンセリング費用
マウスピース矯正の初回カウンセリングでは、患者の希望や懸念、矯正の目的を詳しく話し合います。このカウンセリングには通常、3,000円から5,000円の費用がかかりますが、クリニックによっては無料で提供している場合もあります。
検査費用
初診後に行われる詳細な口腔内検査には、写真撮影、レントゲン撮影、型取りなどが含まれます。これらの検査には通常、15,000円から30,000円程度の費用がかかります。検査結果をもとに治療計画が立てられ、具体的な治療内容が決定されます。
治療開始時の費用
治療を開始する際には、マウスピースの製作費用や初回の装着指導費用が発生します。前歯のみの部分矯正の場合、治療開始時の費用はおよそ100,000円から150,000円程度です。この費用には、マウスピースの製作費用と最初の数セット分のマウスピース代が含まれます。
治療中にかかる費用
治療期間中には、定期的な診察とマウスピースの交換が必要です。これら治療中にかかる費用の目安は30〜60万円程度です。詳細は症例によりますので、詳しくは歯科医師と事前にしっかり確認しておきましょう。
終了後のメンテナンスの費用
治療が終了した後も、歯が元の位置に戻らないようにするために保定装置(リテーナー)の使用が必要です。保定装置の費用は、15,000円から30,000円程度です。
また、保定期間中の定期メンテナンスの費用は1回当たり3,000円から5,000円程度の歯科医院が多いようです。
具体的な費用はクリニックや治療計画によって異なるため、詳細な見積もりについてはカウンセリング時に確認しましょう。
マウスピースによる前歯のみの矯正の注意点とは?
前歯のみの矯正は、全体的な矯正に比べて短期間で効果が得られますが、注意点もあります。
まず、前歯の部分矯正が適応できるかどうかは、個々の歯並びの状態によります。
重度のかみ合わせの問題や歯の位置について大幅な移動がある場合、部分矯正ではなく全体的な矯正が必要となることがあるでしょう。
適切な治療計画を立てるために、歯科医師との詳細なカウンセリングは不可欠です。
治療中の注意点
治療中は以下の点に注意が必要です。
(1)効果を最大限に引き出すため、マウスピースは1日20時間以上装着しましょう。食事や歯磨きのとき以外は常に装着するよう心掛けてください。
(2)マウスピースを装着する前に必ず歯を磨き、口もマウスピース自体も清潔に保つことが重要です。口の中が汚れていると、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
(3)定期的な診察を受けましょう。治療中は定期的に歯科医師のチェックアップを受け、治療の進行状況を確認し、必要に応じてマウスピースの調整を行います。
(4)マウスピースを装着したまま食事をすることはせず、必ず取り外してから食事をしてください。また、硬い食べ物や粘着性のある食べ物は歯に強い力がかかるため、注意が必要です。
マウスピース矯正治療終了後の注意点
治療が終了した後も、歯並びを維持するために以下の点に注意が必要です。
(1)保定装置(リテーナー)の使用:治療後、歯が元の位置に戻らないようにするために保定装置を使用します。リテーナーの使用は、治療後の数カ月間、一日中装着し、その後は就寝時に装着することが一般的です。
(2)定期的な歯科検診:矯正治療が終わった後も、定期的な歯科検診を続けることが重要です。歯科医師が歯並びやかみ合わせの状態を確認し、必要に応じてリテーナーの調整を行います。
ただし、前歯部をメインとした矯正治療の場合、臼歯部の矯正治療にはならないので、治療後に後戻りする可能性があります。
(3)口をきれいに保つ:矯正治療終了後も良好な口腔衛生環境を維持することが大切です。毎日のブラッシングやフロスの使用を続け、虫歯や歯周病の予防に努めましょう。
(4)生活習慣の見直し:かみしめや歯ぎしりなどの悪習慣がある場合、それらが歯並びに影響を及ぼします。ナイトガードの使用を歯科医師がおすすめすることがあります。
マウスピースによる前歯の矯正は効果的な治療法ですが、治療中および治療後の適切なケアと注意が必要です。歯科医師の指導を守りつつ、積極的に治療に取り組むことで、きれいな歯並びとなり、口元に自信がつくでしょう。